แชร์

4-13 京極正人との出会い 2

ผู้เขียน: 結城 芙由奈
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-03-23 19:15:02

「僕の犬とすごく仲良さそうに遊んでいたので、また二匹を一緒に遊ばせたいなと思って。でも……迷惑でしょうか? 別に怪しい者じゃありませんから。よければ名刺があるので」

男性は胸ポケットから名刺を出して朱莉に手渡してきた。

「京極……正人さん……ですか? えっと……リベラルテクノロジーコーポレーション代表取締……役……?」

朱莉は名刺を見て目を丸くした。

「どうかしましたか?」

「あ、あの……代表取締役って……まさか社長さんですか!?」

名刺を両手で握り締めながら朱莉は京極と名乗る男性を見た。

「ええ……まあ一応は。でも2年前に独立して作ったばかりの会社なので、それ程大したことはありませんよ。IT産業の企業なので、僕も含めて社員の殆どは在宅勤務か必要に応じてレンタルオフィスを利用しているんですよ。ゆくゆくは自社ビル位は持とうかと考えていますけど……」

京極の話を朱莉は呆然と聞いていた。やはりこの億ションに住む人達は自分とは住む世界が違うのだと思うと、何となく惨めな気持ちになってきた。今の状態で6年後の契約結婚が終わり、翔と離婚をすれば朱莉はこの億ションを出なければいけない。自分には何も残らないのだ。その為にはまず通信教育を頑張って、高校卒業の資格を得なければならない。

一方の京極は突然朱莉が黙りこくってしまったので、再度声をかけた。

「あの……何かありましたか?」

「あ、いえ。何でもありません」

「あの、宜しければ貴女の名前も教えていただけますか?」

(名前……? 私に鳴海の姓を名乗る資格があるの……?)

いくら翔と婚姻関係を結んでいるとは言え、所詮それは書類上だけのこと。

だが……。

「はい、鳴海朱莉と申します」

「朱莉さんですか。良い名前ですね」

何故か男性は苗字ではなく、下の名前で話しかけてきた。

「ありがとうございます。あの、それではそろそろ失礼しますね」

すぐに部屋に戻って勉強をしなければ……。朱莉は立ち上ると、京極に声をかけられた。

「あ、あの」

「はい?」

朱莉は立ち上がったまま返事をした。

「それで、ここで一緒に犬を遊ばせるという話ですが……」

(ああ……そう言えばそんな話をしていたっけ……)

「あの……今と同じ時間で、1時間位なら大丈夫ですよ?」

朱莉はとてもでは無いが出会ったばかりの男性に、もうすぐ私の飼い犬はいなくなります。とは言えなかった。

อ่านหนังสือเล่มนี้ต่อได้ฟรี
สแกนรหัสเพื่อดาวน์โหลดแอป
บทที่ถูกล็อก

บทที่เกี่ยวข้อง

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   4-14 バレた嘘 1

    ――16時「ふう~。今日の打ち合わせは中々ハードだった……」琢磨が疲れ切った様子でオフィスに戻って来た。「ご苦労だったな。琢磨」翔がコーヒーを琢磨に手渡した。「へえ……。副社長自らがコーヒーを淹れてくれるとはな」琢磨はらコーヒーを一口飲むと笑みを浮かべる。「うん、旨い」翔も自分にコーヒーを淹れると、琢磨に質問した。「なあ……琢磨。お前に聞きたい事があるんだが……」「その顔からすると会社の話じゃないな? 大方明日香ちゃんか朱莉さんのことだろう?」コーヒーをデスクの上に置くと琢磨は椅子の背もたれに寄りかかる。「……俺はまたヘマをしてしまったらしい」「ヘマ? 一体どんな?」「マロンの動画が明日香に見つかってしまった」翔は神妙な面持ちで言った。「え? ヘマってそれだけのことか?」「ああ……。そうだ」「何だよ。ヘマって言うからどれ程の物かと思った、、別にバレないだろう? 送り主だって俺なのに」「いや……。それが明日香に朱莉さんが飼っている犬だとバレてしまったんだ」「何だって!? ……ったく。明日香ちゃんはお前が絡んでくると、恐ろしく勘が鋭くなるよな? それで何があった? 明日香ちゃんは確か動物が嫌いだったよな?」琢磨はコーヒーに手を伸ばし、一口飲んだ。「明日香は……言ったんだ。朱莉さんが飼い犬を虐待しているって……」翔は沈痛な面持ちで琢磨に言う。「はあ……? 翔……お前、その話信じたのかよ?」琢磨は呆れたように翔を見た。「まさか! 信じるはず無いだろう!? だが……まだ明日香は精神が不安定なんだ……。だから信じざるを得なかった……」「お、お前なあ……! まあいい。最後まで話を聞かせろよ」「あ、ああ。それで明日香は朱莉さんに言ったらしいんだ。1週間以内に犬を手放さなければ……保健所に通報するって……」「……」琢磨は口をぽかんと開けたまま翔を見つめた。「どうした? 琢磨」「いや……あまりのことに一瞬言葉を無くしてしまっただけだ。翔、勿論そんな馬鹿な話やめさせたんだよなあ?」「……いや。止めなかった……」「お前、本当に止めなかったのか? それじゃ朱莉さんにあの犬を手放させるつもりなのか? 翔! お前朱莉さんが何故犬を飼いたがったのか分からないのか!?」琢磨は声を荒げて翔を見た。「犬が……好きだから……? いや

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-24
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   4-15 バレた嘘 2

    「お前なあ!」気付けば琢磨は翔の胸倉を掴んでいた。……がしかし、その手を降ろした。「琢磨……? 殴らないのか?」「馬鹿言うな。会社で副社長のお前を殴れるはずが無いだろう?」「そうだよな……」翔は自嘲気味いに笑った。「となると……きっとあの朱莉さんのことだ。今頃必死になってマロンの飼い犬を探しているはずだな……」「ああ、そうだ。多分な……」「俺達も協力して探してやるのがいいのかもしれないが……それだと何だかまるで俺達は早く朱莉さんに犬を手放させようと取られかねないし……」琢磨は腕組みしながら考えた。「なあ、琢磨。お前のマンションで飼えないか? そうすれば週末位なら朱莉さんとマロンを会わせることが……」そこまで翔が言いかけると、琢磨が顔を真っ赤にして怒り出した。「おい翔! お前、ふざけるなよ! 俺の住むマンションは第一ペット不可だ。バレたら追い出されてしまうだろう!? 大体、お前仮に俺が預かったとして……朝から仕事の俺がどうやって犬の世話が出来るって言うんだ!? そこまで言うなら、社内にペット専用ルームでも作れよ!」「うん……それは良い考えかもな……」「おいおい……冗談だろう?」琢磨はひきった顔で翔を見た。「いや……勿論冗談だ。だが明日香との約束まで後6日しかないからな……。何か対策を考えないと……」「ああ、そうだ。俺達には責任があるからな。だいたい、お前早目のバレンタインプレゼントを朱莉さんから貰ってるしな」琢磨の言葉に翔は反応した。「バレンタインプレゼント……? そう、それだ!!」「な、何だよ! 今度は! 急に大声を出すなよ!」しかし翔は琢磨の言葉に耳を貸さずに、ハンガーにかけてあるマフラーを持って来ると琢磨に見せた。「教えてくれ、琢磨。このマフラーを編んだのは朱莉さんなのか?」「多分な。以前朱莉さんからマロンの動画を送って貰った時に、お前へのバレンタインプレゼントに藍色のマフラーを編んでいると言ってたからな。ただ……どうやって手渡せばいいか悩んでいた。……おい、どうした? 翔」「そ、そんな……」翔は唇をかみしめている。「翔?」「昨夜……部屋に帰るとリビングのソファの隙間にこのマフラーが落ちていたんだ。それでてっきり明日香の手編みのマフラーかと思って尋ねたら……頷いたんだ」「それで、明日香ちゃんの手編みのマフ

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-24
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   4-16 初めての翔からの電話 1

     21時―― 朱莉はペットショップからPCに送られてきたメールに目を通していた。そこには今日も新しく飼い主になってくれるような方は現れませんでしたとう内容のメッセ―ジが書かれていた。「やっぱり、そう簡単には見つからないんだな……」朱莉は犬用ベッドで丸くなって眠っているマロンを見ながら溜息をついた。マロンは今から30分程前にシャワーで身体を綺麗に洗った。ドライヤーで乾かしてあげた頃にはすっかり眠くなっていたようで、今は気持ちよさそうに眠っている。椅子から立ち上がると、そっと眠っているマロンの身体に触れる。(温かい……)マロンの温かい体温が、ドクドクと動く心臓の音が朱莉の掌を通して伝わって来る。朱莉の掌に涙がポトリと垂れた。マロンの身体に触れながら、朱莉は声も出さずにポロポロと涙を流していた。(マロン……離れたくない……。あなたを手放したくない……。ずっと側にいて欲しいのに……)その時、突然朱莉のスマホに電話の着信を知らせるメロディーが鳴り響いた。「電話……?」(珍しい。誰からだろう)ひょっとして母からだろうか……? 電話の番号は見たことも無い番号だった。(どうしよう?)電話に出ようか出まいか、朱莉は迷ったが……スマホをタップした。「もしもし……?」『朱莉さんか? 俺だ。翔だよ』電話の相手はなんと翔からだったのだ。今まで一度も翔から電話を貰ったことが無い朱莉はすっかり面食らってしまった。「あ、あの……本当に翔さんなんですか……?」『ああ、そうだよ。すまない、今まで一度も電話を掛けた事が無かったから驚かせてしまったね?』「あ……はい、少し驚きました」受話器越しから聞こえて来る翔の声に朱莉の心は自然と高まってきた。『何だか声の調子がおかしいみたいだけど……もしかして泣いていたのかい?』「!」翔の気遣うような言葉に思わず朱莉は息を飲んだ。その様子が翔に伝わったのだろうか。『すまなかった……。朱莉さん』「え……?」突然の翔の謝罪の言葉に朱莉は戸惑った。『明日香が朱莉さんにマロンを手放す様に言ったらしいな?』「! 知っていたんですか……?」まさか、翔にマロンの件の話が伝わっているとは朱莉は夢にも思わなかった。『ああ、明日香が自分から言ってきたんだ。本当にすまなかった……。俺がへまをして琢磨経由で朱莉さんが動画撮影してくれ

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-24
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   4-17 初めての翔からの電話 2

    『朱莉さん……俺には明日香を止めることが出来ない……』朱莉は翔の話を黙って聞いていた。(ええ。分かっています……だって翔先輩の一番は……明日香さんだっていうことは高校時代から……)「はい。今マロンの飼い主を探している所です。でも、ありがと「うございました」『何故お礼を言うんだい?』翔の声は何処か苦しそうだった。「それは……ほんの短い間でもマロンと一緒に暮らせたからです。感謝しています」目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとなったが、朱莉は泣くのを必死で堪えながら言葉を綴った。(駄目……今ここで泣いたら翔先輩が気にしてしまう……)『朱莉さん。俺の方でもマロンを大事に育ててくれそうな人を探してみる。明日香の提示した期限ギリギリまではマロンの側にいられるように条件を提示して探してみるから……。すまない。それ位しかしてやれなくて』「いえ……。お、お仕事が忙しいのにそこまで考えていただき、ありがとうございます」朱莉は泣きたい気持ちを必死に抑えて翔にお礼を述べた。『朱莉さん……』翔の声が躊躇いがちに朱莉の名を呼んだ。「は、はい」『藍色のマフラー。俺の為に編んでくれたんだって? 大事に使わせて貰っているよ。ありがとう』翔の言葉に朱莉は驚いた。「え? ど、どうして……?」『明日香が朱莉さんの所へ行った時、マフラー無くなっていただろう?』「は、はい」『部屋に帰ったらマフラーがソファの上に落ちていたんだ……』「!」『てっきり、俺は明日香が編んだマフラーなのかと思って尋ねたら、明日香は頷いたんだよ。だけど、よく考えてみれば、明日香には編み物なんか出来ない』「あ……」『そして秘書の琢磨に聞いたんだ。朱莉さんが俺の為にマフラーを編んでくれていたって話をね』受話器越しから聞こえて来る翔の声は、今迄朱莉が聞いたこともない程に優し気なものだった。『ありがとう。誰かに手編みのマフラーを貰ったのは生れて初めてだったから本当に嬉しかったよ』「!」朱莉は思わずスマホを落しそうになってしまった。まさか翔からそのような言葉を貰えるとは思ってもいなかった。『本当に今回の件はすまなかった。いずれ改めて何らかの形で朱莉さんに謝罪させてもらうから……今回のマロンの件は……』(翔先輩だって……本当は動物が好きなのに、私の辛い気持ち……分かってくれてるんだよね……?)

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-24
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   4-18 声を掛けた理由 1

     翌朝―――出社した翔は、先に仕事を始めていた琢磨に声をかけた。「おはよう、琢磨」「おはよう翔。お? 今日も朱莉さんが編んだマフラーしてきたんだな?」琢磨は顔を上げると、翔の首もとを見て目を細めた。「ああ。朱莉さんがせっかく編んでくれたマフラーだからな」「そうか。別に明日香ちゃんはそのマフラーをしても何も言わないんだろう?」琢磨は何所か面白そうに尋ねた。「そうだな。黙って見ているよ」「ククク……そりゃ何も文句言えるはずないよなあ? だって翔には自分がそのマフラーを編んだと説明しているんだからな」肩を震わせながら笑う琢磨。「まあ、そう言ってくれるなよ、琢磨。多分明日香は俺がこのマフラーを使っている姿を見るのは辛いはずなのに我慢しているんだから」翔の言葉に琢磨は肩をすくめた。「全く……またそうやってすぐお前は明日香ちゃんの肩を持つんだからな。俺には理解できないよ。そりゃ明日香ちゃんは美人かもしれないが、性格が強すぎる」「明日香がああなったのは仕方が無い。自分の立場を必死で守る為に虚勢を張らざるを得なかったんだから。お前だって知ってるだろう? 元の明日香はあんな性格じゃなかったことくらい」「……」琢磨は翔の話を黙って聞いていたが、やがて言った。「翔、今日の仕事のスケジュールを説明するぞ……」その後、翔と琢磨は仕事モードに切り替えた――**** 11時――朱莉はマロンを連れてドッグランへとやって来ていた。昨日知り合ったばかりの京極と約束をしていたからである。「朱莉さん! こっちです!」ドッグランへ着くと、もうすでに京極は到着しており、飼い犬をドッグランで遊ばせていた。「こんにちは。遅くなってすみません。まさかもういらしているとは思わなくて…」遅れてしまったことを京極に詫びた。「ハハハ……別にいいんですよ。何せ僕よりもショコラの方が早く遊びに来たがっていたので」京極は自分の飼い犬を抱き上げた。「ショコラ?」朱莉が首を傾げると、京極は笑みを浮かべた。「ああ。すみません。この犬の名前ですよ」京極は犬の頭を撫でた。ショコラは今にも尻尾がちぎれてしまうのではないかと思われるくらい激しく尻尾を振って喜んでいる。「すごい偶然だと思いませんか? 朱莉さんの犬の名前がマロンで僕の犬の名前がショコラなんて。美味しそうなスイーツの

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-25
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   4-19 声を掛けた理由 2

     少しの間、2人の間に沈黙が流れたが、先に口火を切ったのは京極の方だった。「朱莉さん、犬を飼うのは慣れているんですか?」「いいえ、つい最近飼い始めたばかりなんです」するとその言葉に驚いたのか京極が目を見開いて朱莉を見た。「ええ? そうだったんですか? てっきり朱莉さんは犬を飼うのが慣れている方だと思っていましたよ」「何故そう思ったのですか?」「それはマロンを見てみれば分かりますよ。とても手入れが行き届いている。愛情が無ければあそこまで綺麗に毛並みを整える事なんて出来ませんよ。マロンはとても大事にされてるんですね」大事に……本当にそうなのだろうか? 本当に大事なら、どんなに明日香に攻め立てられても身体を張ってでもマロンを守り抜くのが真の愛情なのではないだろうか?「私はそれほど立派な飼い主ではありませんよ……」今にも消え入りそうな声だった。京極は少しの間、沈黙してたがやがて口を開いた。「僕は最初ここに引っ越してきた当時……本当はここに住む人達とは誰とも交流を持つまいと思っていたんですよ」どこか遠いところを見るように京極は言った。「僕はシングルマザーの母の元で貧しい環境で育ってきたんです。僕の親戚は金持ちが多かったけれども、周囲の反対を押し切って結婚した母のことを良く思っていなかった。早くに亡くなった父は貧しい画家だったのでね。お金が無くて苦しい生活だったけど、誰も援助はしてくれなかった。皆お金持ちだったのに」京極は一体何を言いたいのだろう? 朱莉は黙って話を聞いていた。「だから、僕は必至で勉強を頑張って……いつかお金持ちになって彼らを見返してやろうと思っていた。そして僕が成功するとそれまで見向きもしなかった親戚たちが僕の元に集まるようになったんですよ。結局、金持ちは金持ちとしか付き合いたくないってことなんですよね」そこで一度京極は言葉を切ると再び続けた。「だからここに越してきた時も誰とも交流を持つのはやめようと思っていたんです。実際ここに住む人達は皆お高く留まった人間たちばかりだったから。でもそんな時、朱莉さん。貴女を見かけたんです」京極はじっと朱莉を見つめた。「私を……?」「ええ、貴女はここで働くフロントのスタッフ達に丁寧に頭を下げ、いつもお世話になっていますと声をかけてました」確かに言われてみればそうだったかもしれない。で

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-25
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   4-20 明日香からの報告 1

    「あ、あの……実は……」朱莉が京極に話そうとした時。「あら? 朱莉さんじゃないの? 何してるのこんな所で……ってああ。そこはドッグランだったのね」買物でもしてきたのだろうか? 全身ブランド物で身を固めた明日香がブランドのロゴマークが入った紙バックを持って立っていた。「あ、明日香さん。こ、こんにちは」朱莉は緊張の面持ちで明日香に挨拶をした。「それで? 新しい飼い主は見つかったのかしら?」明日香は朱莉の隣に京極が座っているのもお構いなしに話しかけてくる。「え……?」それを聞いた京極が小さく口の中で呟くのを朱莉は聞いてしまった。一気に朱莉の緊張が高まる。(どうしよう……。私から説明する前に京極さんに犬を手放すことがばれてしまった……!)一瞬朱莉は目を伏せ、唇をギュッと噛み締めた。そしてそんな朱莉を意地悪い笑みを浮かべて見つめる明日香。「ところで朱莉さん。御隣にいる方はどなたかしら?」明日香の問いかけに朱莉は一瞬ビクリと肩を震わせたが、すぐに答えた。「あ、あの……。この方は……」朱莉が言いかけると、京極が口を開いた。「いえ、僕から説明しますよ。初めまして、京極正人と言います。つい最近こちらに引っ越してきました。鳴海さんとは昨日このドッグランで初めてお会いしました。偶然にも同じ犬種でして、互いの犬が仲良さげに遊んでいたので本日もこちらで一緒に遊ばせていたんです」鳴海……ここで京極は初めて朱莉のことを苗字で呼んだ。そのことに少しだけ驚き、京極の横顔を見上げた。もしかして、京極は朱莉と明日香の張り詰めた空気に何か気付いたのだろうか? 朱莉の心臓の鼓動が早まってきた。(どうか……どうか明日香さん……今日はもう見逃してください……!)しかし、明日香と朱莉の2人の世界で朱莉に優しかったことは一度も無かった。「そうですか。私は鳴海明日香と申します。彼女……朱莉さんは私の兄嫁なんですよ?」明日香はにっこり微笑みながら京極に言った。兄嫁……今迄一度も明日香は朱莉をそんな風に呼んだこと等無かったのに、京極の前で明日香は初めてその言葉を口にしたのだった。「!」京極の息を飲む気配が朱莉にも感じられた。別に内緒にしていたわけでは無いが、今の自分の置かれた環境を京極に伝えるのは惨めだった。それ程親しい関係でも無かったので、敢えて言う必要などは無いだろうと

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-25
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   4-21 明日香からの報告 2

     オフィスで琢磨と打ち合わせをしていた時に、デスクに置いてあった翔のスマホから着信を知らせる音楽が鳴った。2人は何気にスマホを見ると、着信相手は明日香になっていた。「明日香……?」翔は首を傾げた。「明日香ちゃんからメッセージか? 珍しいこともあるもんだな……仕事中の時間は滅多にメッセージを送って来ることは無かったのに。緊急の用事なのかもしれないから見てみろよ」「あ、ああ……。悪いな、琢磨」翔はスマホを見つめ……眉を顰めた。「どうしたんだ? 翔」「い、いや……朱莉さんが……」「何? 朱莉さんがどうかしたのか?」「億ションにあるドッグランで……若い男性と親し気に話をしていたらしい……」「何だ、別にそれ位どうってこと無いだろう?」琢磨は背もたれに寄りかかった。「だが……明日香が朱莉さんはその男性に気があるように見えたって言ってきてるんだ。相手の男性もまんざらでもなさそうだったって……」(もしそれが本当なら俺はどうすればいい? 契約書には世間の目があるから浮気は絶対にしてはならないと書いてあるが……実際は朱莉さんに何一つそんなことを言う資格は俺に無いし……)本音を言えば翔は朱莉に恋愛だって自由にさせてあげたいと心の奥底では考えていた。だが……。「……翔。何を考えているんだ?」気付けば琢磨がじっと翔を見つめていた。「明日香は世間の目があるから朱莉さんに男性と2人きりにさせるような環境を作らないように言い聞かせろとメッセージに書いてあるんだが……」翔はスマホを握りしめた。「……朱莉さんの好きにさせておけよ」琢磨がポツリと言った。「え…… ?お前……今何て……」「だから、朱莉さんの好きにさせておけと言ってるんだ。俺達に朱莉さんに契約婚の間は恋愛禁止、男性と2人きりになるなって言える立場にあるのか? 確かに書類上はお前と朱莉さんは婚姻関係にあるが実際はそんなのまやかしじゃないか。世間を偽る為の偽装夫婦だろう!? お前はいいよ、翔。大好きな明日香ちゃんと2人きりで夫婦ごっこしているんだもんなあ? だが朱莉さんはどうだ? たった1人きりであの広い億ションに住んで、今はさらにマロンとも引き放されなくちゃならない立場に追いやられてる。恋愛の一つ位……自由にさせてやるべきだと俺は思うけどな!?」いつになく強い口調で話す琢磨に翔は唖然としていた。

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-25

บทล่าสุด

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-20 翔の隠し事 2

    「翔さん、落ち着いて下さい。医者の話では出産と過呼吸のショックで一時的に記憶が抜け落ちただけかもしれないと言っていたではありませんか。それに対処法としてむやみに記憶を呼び起こそうとする行為もしてはいけないと言われましたよね?」「ああ……だから俺は何も言わず我慢しているんだ……」「翔さん。取りあえず今は待つしかありません。時がやがて解決へ導いてくれる事を信じるしかありません」やがて、2人は一つの部屋の前で足を止めた。この部屋に明日香の目を胡麻化す為に臨時で雇った蓮の母親役の日本人女子大生と、日本人ベビーシッター。そして生れて間もない蓮が宿泊している。 翔は深呼吸すると、部屋のドアをノックした。すると、程なくしてドアが開かれ、ベビーシッターの女性が現れた。「鳴海様、お待ちしておりました」「蓮の様子はどうだい?」「良くお休みになられていますよ。どうぞ中へお入りください」促されて翔と姫宮は部屋の中へ入ると、そこには翔が雇った蓮の母親役の女子大生がいない。「ん? 例の女子大生は何処へ行ったんだ?」するとシッターの女性が説明した。「彼女は買い物へ行きましたよ。アメリカ土産を持って東京へ戻ると言って、買い物に出かけられました。それにしても随分派手な母親役を選びましたね?」「仕方なかったのです。急な話でしたから。それより蓮君はどちらにいるのですか?」姫宮はシッターの女性の言葉を気にもせず、尋ねた。「ええ。こちらで良く眠っておられますよ」案内されたベビーベッドには生後9日目の新生児が眠っている。「まあ……何て可愛いのでしょう」姫宮は頬を染めて蓮を見つめている。「あ、ああ……。確かに可愛いな……」翔は蓮を見ながら思った。(目元と口元は特に明日香に似ているな)「残念だったよ、起きていれば抱き上げることが出来たんだけどな。帰国するともうそれもかなわなくなる」すると姫宮が言った。「いえ、そんなことはありません。帰国した後は朱莉さんの元へ会いに行けばいいのですから」「え? 姫宮さん?」翔が怪訝そうな顔を見せると、姫宮は、一種焦った顔をみせた。「いえ、何でもありません。今の話は忘れてください」「あ、ああ……。それじゃ蓮の事をよろしく頼む」翔がシッターの女性に言うと、彼女は驚いた顔を見せた。「え? もう行かれるのですか?」「ああ。実はこ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-19 翔の隠し事 1

     アメリカ—— 明日いよいよ翔たちは日本へ帰国する。翔は自分が滞在しているホテルに明日香を連れ帰り、荷造りの準備をしていた。その一方、未だに自分が27歳の女性だと言うことを信用しない明日香は鏡の前に座り、イライラしながら自分の顔を眺めている。「全く……どういうことなの? こんなに自分の顔が老けてしまったなんて……」それを聞いた翔は声をかける。「何言ってるんだ、明日香。お前はちっとも老けていないよ。いつもどおりに綺麗な明日香だ」すると……。「ちょっと! 何言ってるのよ、翔! 自分迄老け込んで、とうとう頭もやられてしまったんじゃないの? 今迄そんなこと私に言ったこと無かったじゃない。大体おかしいわよ? 私が病院で目を覚ました時から妙にベタベタしてくるし……気味が悪いわ。もしかして私に気があるの? 言っておくけど仮にも血が繋がらなくたって私と翔は兄と妹って立場なんだから! 私に対して変な気を絶対に起こさないでね!?」明日香は自分の身体を守るように抱きかかえ、翔を睨み付けた。「あ、ああ。勿論だ、明日香。俺とお前は兄と妹なんだから……そんなことあるはず無いだろう?」苦笑する翔。「ふ~ん……翔の言葉、信用してもいいのね?」「ああ、勿論さ」「だったらこの部屋は私1人で借りるからね! 翔は別の部屋を借りてきてちょうだい。 あ、でも姫宮さんは別にいて貰っても構わないけど?」明日香は部屋で書類を眺めていた姫宮に声をかける。「はい、ありがとうございます」姫宮は明日香に丁寧に挨拶をした。「それでは翔さん、別の部屋の宿泊手続きを取りにフロントへ御一緒させていただきます。明日香さん。明日は日本へ帰国されるので今はお身体をお安め下さい」姫宮は一礼すると、翔に声をかけた。「それでは参りましょう。翔さん」「あ、ああ。そうだな。それじゃ明日香、まだ本調子じゃないんだからゆっくり休んでるんだぞ?」部屋を出る際に翔は明日香に声をかけた。「大丈夫、分かってるわよ。自分でも何だかおかしいと思ってるのよ。急に老け込んでしまったし……大体私は何で病院にいたの? 交通事故? それとも大病? そうでなければ身体があんな風になるはず無いもの……」明日香は頭を押さえながらブツブツ呟く「ならベッドで横になっていた方がいいな」「そうね……。そうさせて貰うわ」返事をすると

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-18 雨の中の再会 2

     琢磨に礼を言われ、朱莉は恐縮した。「い、いえ。お礼を言われるほどのことはしていませんから」「朱莉さん、そろそろ17時になる。折角だから何処かで食事でもして帰らないかい?」「あ、それならもし九条さんさえよろしければ、うちに来ませんか? あまり大した食事はご用意出来ないかもしれませんが、なにか作りますよ?」朱莉の提案に琢磨は目を輝かせた。「え?いいのかい?」「はい、勿論です。あ……でもそれだと九条さんの相手の女性の方に悪いかもしれませんね……」「え?」その言葉に、一瞬琢磨は固まる。(い、今……朱莉さん何て言ったんだ……?)「朱莉さん……ひょっとして俺に彼女でもいると思ってるのかい?」琢磨はコーヒーカップを置いた。「え? いらっしゃらないんですか?」朱莉は不思議そうに首を傾げた。「い、いや。普通に考えてみれば彼女がいる男が別の女性を食事に誘ったり、こうして買い物について来るような真似はしないと思わないかい?」「言われてみれば確かにそうですね。変なことを言ってすみませんでした」朱莉が照れたように謝るので琢磨は真剣な顔で尋ねた。「朱莉さん、何故俺に彼女がいると思ったの?」「え? それは九条さんが素敵な男性だからです。普通誰でも恋人がいると思うのでは無いですか?」「あ、朱莉さん……」(そんな風に言ってくれるってことは……朱莉さんも俺のことをそう言う目で見てくれているってことなんだよな? だが……これは喜ぶべきことなのだろうか……?)琢磨は複雑な心境でカフェ・ラテを飲む朱莉を見つめた。すると琢磨の視線に気づく朱莉。「九条さんは何か好き嫌いとかはありますか?」「いや、俺は好き嫌いは無いよ。何でも食べるから大丈夫だよ」それを聞いた朱莉は嬉しそうに笑った。「九条さんも好き嫌い無いんですね。航君みたい……」その名前を琢磨は聞き逃さなかった。「航君?」「あ、いけない! すみません、九条さん、変なことを言ってしまいました。そ、それじゃもう行きませんか?」朱莉は慌てて、まるで胡麻化すように席を立ちあがった。「あ、ああ。そうだね。行こうか?」琢磨も何事も無かったかの様に立ち上がったが、心は穏やかでは無かった。(航君……? 一体誰のことなんだろう? まさかその人物が朱莉さんと沖縄で同居していた男なのか?それにしても君付けで呼ぶなん

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-17 雨の中の再会 1

     14時―― 朱莉がエントランス前に行くと、すでに琢磨が億ションの前に車を停めて待っていた。「お待たせしてすみません。九条さん、もういらしてたんですね」朱莉は慌てて頭を下げた。「いや、そんなことはないよ。だってまだ約束時間の5分以上前だからね」琢磨は笑顔で答えた。本当はまた今日も朱莉に会えるのが嬉しくて、今から15分以上も前にここに到着していたことは朱莉には内緒である。「それじゃ、乗って。朱莉さん」琢磨は助手席のドアを開けた。「はい、ありがとうございます」朱莉が助手席に座ると、琢磨も乗り込んだ。シートベルトを締めてハンドルを握ると早速朱莉に尋ねた。「朱莉さんは何処へ行こうとしていたんだっけ?」「はい。赤ちゃんの為に何か素敵なCDでも買いに行こうと思っていたんです。それとまだ買い足したいベビー用品もあるんです」「よし、それじゃ大型店舗のある店へ行ってみよう」「はい、お願いします」琢磨はアクセルを踏んだ――**** それから約3時間後――朱莉の買い物全てが終了し、車に荷物を積み込んだ2人はカフェでコーヒーを飲みに来ていた。「思った以上に買い物に時間がかかってしまったね」「すみません。九条さん……私のせいで」朱莉が申し訳なさそうに頭を下げた。「い、いや。そう意味で言ったんじゃないんだ。まさか粉ミルクだけでもあんなに色々な種類があるとは思わなかったんだよ」「本当ですね。取りあえず、どんなのが良いか分からなくて何種類も買ってしまいましたけど口に合う、合わないってあるんでしょうかね?」「う~ん……どうなんだろう。俺にはさっぱり分からないなあ……」琢磨は珈琲を口にした。「そう言えば、すっかり忘れていましたけど、九条さんの会社はインターネット通販会社でしたね?」「い、いや。俺の会社と言われると少し御幣を感じるけど……まあそうだね」「当然ベビー用品も扱っていますよね?」「うん、そうだね」「それでは今度からはベビー用品は九条さんの会社で利用させていただきます」「ありがとう。確かに新生児がいると母親は買い物も中々自由に行く事が難しいかもね。……よし、今度の企画会議でベビー用品のコンテンツをもっと広げるように提案してみるか……」琢磨は仕事モードの顔に変わる。「ついでに赤ちゃん用の音楽CDもあるといいですね。出来れば視聴も試せ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-16 帰国の知らせ 2

     朝食を食べ終わり、片付けをしていると今度は朱莉の個人用スマホに電話がかかってきた。それは琢磨からであった。昨夜琢磨と互いのプライベートな電話番号とメールアドレスを交換したのである。「はい、もしもし」『おはよう、朱莉さん。翔から何か連絡はあったかい?』「はい、ありました。突然ですけど明日帰国してくるそうですね」『ああ、そうなんだ。俺の所にもそう言って来たよ。それで明日香ちゃんの為に俺にも空港に来てくれと言ってきたんだ。……当然朱莉さんは行くんだろう?』「はい、勿論行きます」『車で行くんだよね?』「はい、九条さんも車で行くのですね」『それが聞いてくれよ。翔から言われたんだ。車で来て欲しいけど、俺に運転しないでくれと言ってるんだ。仕方ないから帰りだけ代行運転手を頼んだんだよ。全く……いつまでも俺のことを自分の秘書扱いして……!』苦々し気に言う琢磨。それを聞いて朱莉は思った。(だけど九条さんも人がいいのよね。何だかんだ言っても、いつも翔先輩の言うことを聞いてあげているんだから)朱莉の思う通り、琢磨自身が未だに自分が翔の秘書の様な感覚が抜けきっていないのも事実である。それ故、多少無理難題を押し付けられても、つい言いなりになってしまうことに琢磨自身は気が付いていなかった。「でも、どうしてなんでしょうね? 九条さんに運転をさせないなんて」朱莉は不思議に思って尋ねた。『それはね、全て明日香ちゃんの為さ。明日香ちゃんは自分がまだ高校2年生だと思っているんだ。その状態で俺が車を運転する訳にはいかないんだろう。全く……せめて明日香ちゃんが自分のことを高3だと思ってくれていれば、在学中に免許を取ったと説明して運転出来たのに……』琢磨のその話がおかしくて、朱莉はクスリと笑ってしまった。「でもその場に私が現れたら、きっと変に思われますよね? 明日香さんには私のこと何て説明しているのでしょう?」『……』何故かそこで一度琢磨の声が途切れた。「どうしたのですか? 九条さん」『朱莉さん……君は何も聞かされていないのかい?』「え……?」『くそ! 翔の奴め……いつもいつも肝心なことを朱莉さんに説明しないで……!』「え? どういうことですか?」(何だろう……何か嫌な胸騒ぎがする)『俺も今朝聞いたばかりなんだよ。翔は現地で臨時にアルバイトとして女子大生と

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-15 帰国の知らせ 1

    「それじゃ、朱莉さん。次は翔から何か言ってくるかもしれないけど、くれぐれもアイツの滅茶苦茶な要求には答えたら駄目だからな?」タクシーに乗り込む直前の朱莉に琢磨は念を押した。「九条さんは随分心配性なんですね。私なら大丈夫ですから」朱莉は笑みを浮かべた。「もし翔から契約内容を変更したいと言ってきたら……そうだな。まずは俺に相談してから決めると返事をすればいい」するとタクシー運転手が話しかけてきた。「すみません。後が詰まってるので……出発させて貰いたいのですが……」「あ! すみません!」琢磨は慌ててタクシーから離れると、朱莉が乗り込んだ。車内で朱莉が琢磨に頭を下げる姿が見えたので、琢磨は手を振るとタクシーは走り去って行った。「ふう……」タクシーの後姿を見届けると、琢磨はスマホを取り出して、電話をかけた。「もしもし……はい。そうです。今別れた所です。……ええ。きちんと伝えましたよ。……後はお任せします。え? ……いいのかって? ……あなたなら何とかしてくれるでしょう? それだけの力があるのですから。……失礼します」そして電話を切ると、夜空を見上げた。「雨になりそうだな……」**** 翌朝――6時朱莉はベッドの中で目を覚ました。昨夜は琢磨から聞いた翔の伝言で頭がいっぱいで、まともに眠ることが出来なかった。寝不足でぼんやりする頭で起きて、着替えをするとカーテンを開けた。「あ……雨……。どうりで薄暗いと思った……」今日は朱莉の車が沖縄から届く日になっている。車が届いたら朱莉は新生児に効かせる為のCDを買いに行こうと思っていた。これから複雑な環境の中で育っていく子供だ。せめて綺麗な音楽に触れて、情操教育を養ってあげたいと朱莉は考えていた。洗濯物を回しながら朝食の準備をしていると、翔との連絡用のスマホに着信を知らせる音楽が鳴った。(まさか、翔先輩!?)朱莉はすぐに料理の手を止め、スマホを見るとやはり翔からのメッセージだった。今朝は一体どんな内容が書かれているのだろう? 翔からの連絡は嬉しさの反面、怖さも感じる。好きな人からの連絡なのだから嬉しい気持ちは確かにあるのだが問題はその中身である。大抵翔からのメールは朱莉の心を深く傷つける内容が殆どを占めている。(やっぱり契約内容の変更についてなのかなあ……)朱莉はスマホをタップした。『おは

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-14 翔の新たな要求 2

    「本当はこんなこと、朱莉さんに言いたくは無かった。だが翔が仮に今の話を直接朱莉さんに話したとしたら? 恐らく翔のことだ。きっと再び朱莉さんを傷付けるような言い方をして、挙句の果てに、これは命令だとか、ビジネスだ等と言って強引に再契約を結ばせるつもりに違いない。だがそんなこと、絶対に俺はさせない。無期限に朱莉さんを縛り付けるなんて絶対にあってはいけないんだ」琢磨は顔を歪めた。(え……無期限に明日香さんの子供の面倒を? それってつまり偽装婚も無期限ってこと……?)なので朱莉は琢磨に尋ねた。「あの……それってつまり翔さんは私との偽装結婚を無期限にする……ということでもあるのですよね?」(そうしたら、私……もう少しだけ翔先輩と関わっていけるってことなのかな?)しかし、次の瞬間朱莉の淡い期待は打ち砕かれることになる。「いや、翔の言いたいことはそうじゃないんだ。当初の予定通り偽装婚は残り3年半だけども子育てに関しては明日香ちゃんが記憶を取り戻すまで続けて貰いたいってことなんだよ」「え……?」「つまり、翔は3年半後には契約通りに朱莉さんと離婚して、子供だけは朱莉さんに引き続き面倒を見させる。しかも明日香ちゃんが記憶を取り戻すまで、無期限にだ。こんな虫のいい話あり得ると思うかい?」「……」朱莉はすっかり気落ちしてしまった。(やっぱり……ほんの少しでも翔先輩から愛情を分けて貰うのは所詮叶わないことなの? でも……)「九条さん」朱莉は顔を上げた。「何だい」「私、明日香さんと翔さんの赤ちゃんを今からお迎えするの、本当に楽しみにしてるんです。例え自分が産んだ子供で無くても、可愛い赤ちゃんとあの部屋で一緒に暮らすことが待ちきれなくて……」「朱莉さん……」「九条さん。もし、子供が3歳になっても明日香さんが記憶を取り戻せなかった場合は、翔さんは私に引き続き子供を育てて欲しいって言ってるわけですよね? それって……翔さんは記憶の戻っていない明日香さんにお子さんを会わせてしまった場合、お互いにとって精神面に悪影響が出るのではと苦慮して私に預かって貰いたいと思っているのではないでしょうか? だって、考えても見てください。ただでさえ10年分の記憶が抜けて自分は高校生だと信じて疑わない明日香さんに貴女の産んだ子供ですと言って対面させた場合、明日香さんが正常でいられると

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-13 翔の新たな要求 1

     明日香が10年分の記憶を失い、高校生だと思い込んでいる話は朱莉にとってあまりにもショッキングな話であった。「朱莉さん、大丈夫かい? 顔色が真っ青だ」「は、はい。大丈夫です。でもそうなると今一番大変なのは翔先輩ではありませんか?」朱莉は翔のことが心配でならなかった。あれ程明日香を溺愛しているのだ。17歳の時、翔と明日香は交際していたのだろうか? ただ、少なくとも朱莉が入学した当時の2人は交際しているように見えた。「朱莉さん、翔が心配かい?」琢磨が少し悲し気な表情で尋ねてきた。「はい、とても心配です。勿論一番心配なのは明日香さんですけど」「やっぱり朱莉さんは優しい人なんだね」(あの2人に今迄散々蔑ろにされてきたのに……それらを全て許して今は2人をこんなに気に掛けて……)「何故翔さんは九条さんに連絡を入れてきたのですか? それに、どうして九条さんから私に説明することになったのでしょう?」朱莉は琢磨の瞳をじっと見つめた。「俺も、2日前に翔から突然メッセージが届いたんだよ。あの時は驚いた。翔と決別した時に、アイツはこう言ったんだよ。互いに二度と連絡を取り合うのをやめにしようと。こちらとしてはそんなつもりは最初から無かったけど、翔がそこまで言うのならと思って自分から二度と連絡するつもりは無かったんだ。それなのに突然……」そして、琢磨は近くを通りかかった店員に追加でマティーニを注文すると朱莉に尋ねた。「朱莉さんはどうする?」「それでは私はアルコール度数が低めのお酒で」「それなら、『ミモザ』なんてどうかな? シャンパンをオレンジジュースで割った飲み物だよ。アルコール度数も8度前後で、他のカクテルに比べると度数が低い」琢磨はメニュー表を見ながら朱莉に言った。「はい、ではそちらを頂きます」「かしこまりました」店員は頭を下げると、その場を立ち去っていく。すると琢磨が再び口を開いた。「明日香ちゃんは自分を高校生だと思い込んでいるから、当然翔の隣にはいつも俺がいるものだと思い込んでいるらしいんだ。考えてみればあの頃の俺達はずっと3人で一緒に高校生活を過ごしてきたようなものだからね。それで明日香ちゃんが目を覚ました時、翔に俺のことを聞いてきたらしい。『琢磨は何処にいるの?』って。それで一計を案じた翔が明日香ちゃんを安心させる為に、もう一度3人で会いた

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-12 重大な話 2

    「九条さんが【ラージウェアハウス】の新社長に就任した話はニュースで知ったんです。あの時九条さん言ってましたよね? 鳴海グループにも負けない程のブランド企業にするって」「ああ、あの話か……。あれは……まあもう1人の社長にああいうふうに言えって半ば命令されたからさ。自分の意思で言った訳じゃ無いが正直、気分は良かったな」琢磨は笑みを浮かべる。「あの翔に一泡吹かせることが出来たみたいだし。初めはテレビインタビューなんて御免だと思ったけどね。大分、翔の奴は慌てたらしい」朱莉もカクテルを飲むと琢磨を見た。「え? その話は誰から聞いたんですか?」「会長だよ」琢磨の意外な答えに朱莉は驚いた。「九条さんは会長と個人的に連絡を取り合っていたのですか?」「ああ、そうだよ。実は以前から会長に秘書にならないかと誘われていたんだ。でも俺は翔の秘書だったから断っていたんだけどね」「そうだったんですか」あまりにも驚く話ばかりで朱莉の頭はついていくのがやっとだった。「それにしても朱莉さんも随分雰囲気が変わったよね? 前よりは積極的になったようだし、お酒も飲めるようになってきた。……ひょっとして沖縄で何かあったのかい?」琢磨の質問に朱莉は一瞬迷ったが、決めた。(九条さんだって話をしてくれたのだから、私も航君のこと、話さなくちゃ)「実は……」朱莉は沖縄での航との出会い、そして別れまでを話した。もっとも名前を明かす事はしなかったが。一方の琢磨は朱莉の話を呆然と聞いていた。(まさか朱莉さんが男と同居していたなんて。しかもあんなに頬を染めて嬉しそうに話してくるってことは……その男、朱莉さんに取って特別な存在だったのか?)朱莉が沖縄で男性と同居をしていた……その事実はあまりに衝撃的で、琢磨の心を大きく揺さぶった。「それでその彼とは東京へ戻ってからは音信不通……ってことなのかい?」内心の動揺を隠しながら琢磨は尋ねた。「はい。そうです。だから条さんとは連絡が取れて嬉しかったです。ありがとうございました」お酒でうっすら赤く染まった頬ではにかみながら琢磨にお礼を言う朱莉の姿は琢磨の心を大きく揺さぶった。「そ、そんな笑顔で喜んでくれるなんて思いもしなかったよ。でも……そうか。朱莉さんが以前よりお酒を飲めるようになったのはその彼のお陰なんだね?」「そうですね……。きっとそう

สำรวจและอ่านนวนิยายดีๆ ได้ฟรี
เข้าถึงนวนิยายดีๆ จำนวนมากได้ฟรีบนแอป GoodNovel ดาวน์โหลดหนังสือที่คุณชอบและอ่านได้ทุกที่ทุกเวลา
อ่านหนังสือฟรีบนแอป
สแกนรหัสเพื่ออ่านบนแอป
DMCA.com Protection Status